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PART 02 / CHAPTER 13

費用と時間──
ループは回るほど高くつく

「AIに任せれば安くて速い」。半分は正しく、半分は誤りです。エージェントの費用と時間は、頭脳の性能ではなく、ループがどう回り、机がどれだけ大きくなるかという構造で決まります。この章では、お金と時間がどこでかかり、なぜ周回とともに膨らむのかを、仕組みから見ていきます。

目安 約20分図解 4点確認問題 3問
この章で分かること
  • エージェントの費用が「頭脳が読む量と書く量」「道具」「人の時間」から成り立っていることを説明できる
  • ループの周回が増えると、費用が周回数に比例するより速く増える理由が分かる
  • 上限の決め方、小さく試す見積もり、人がやる場合との正しい比べ方を判断できる

13.1何にお金がかかるのか

エージェントに仕事を任せると、どこでお金がかかるのでしょうか。まず、いちばん大きな部分から見ていきます。

第2章で見たように、頭脳(言語モデル)は文章を小さな断片に分けて読み、次の断片を1つずつ予測して書いていきます。頭脳の利用料は、この断片の数に応じて決まる形が一般的です。読んだ断片の数と、書いた断片の数。この2つが、頭脳の費用の土台になります。読む量と書く量で単価が違うこともありますが、どちらも「量に応じてかかる」という点は同じです。

では、頭脳が「読む量」とは何でしょうか。それは、そのとき机の上に載っているもの全部です。第5章で見たとおり、頭脳は一手ごとに、運用者の指示、依頼文、これまでのやりとり、道具の結果、読んだ資料、作業メモを、最初から全部読み直して次の一手を決めます。つまり、読む量=その周の机の大きさです。

「書く量」には、成果物の文章だけでなく、道具への依頼書(第4章)や、答える前に考えを書き出す下書き(第2章)も含まれます。利用者の目に触れない文章も、書いた分だけ費用になります。

頭脳のほかにも、費用はかかります。検索やデータの取得など、道具によっては使うたびに利用料がかかるものがあります。そして見落とされやすいのが、人の時間です。始める前に依頼を整える時間、途中で相談に答える時間、終わった後に作業記録と成果物を確かめる時間、やり直しを指示する時間。これらは請求書には載りませんが、まぎれもなく仕事の費用です。

ループの1周の中で、読む量・書く量・道具の利用料・人の時間がかかる場所を示す図 机 第5章 指示・依頼文 これまでのやりとり 道具の結果・資料 作業メモ 周を重ねるほど増える 頭脳 机を読み、書く 道具 検索・取得など ① 読む量 ② 書く量 ③ 利用料 結果が机に載る(次の周の①が増える) ①と②は断片の数で決まることが多い ④ 人の時間 依頼を整える・相談に答える・確かめる
図13-11周ごとにかかるもの。①と②は頭脳の利用料、③は道具の利用料、④は請求書に載らない人の時間

この図でいちばん大事なのは、①の「読む量」が周ごとに一定ではないということです。道具の結果が机に載るたびに、次の周で読む量が増えていきます。これが、次の節で見る「ループは回るほど高くつく」理由の中心です。

13.2ループは回るほど増える

答えるAIへの1回の質問なら、頭脳は質問文を読んで答えを書けば終わりです。読む量も書く量も1回分です。ところがエージェントは、目標に届くまでループを何周も回します。しかも、その1周ごとに机の上を最初から全部読み直すのでした(第5章)。

ここで、周を重ねると机がどうなるかを思い出してください。検索をすれば検索結果が、記事を読めば記事の本文が、自分の考えを書けばその文章が、机の上に積み上がっていきます。机は周回とともに大きくなり、大きくなった机を、次の周でまた最初から読み直すことになります。

説明のために、思い切って単純にした例で考えてみましょう。机の大きさを「単位」で数え、1周めの机が1単位、その後は1周ごとに1単位ずつ増えていくとします。数字はすべて説明のための例で、実際の量を表すものではありません。

周回ごとの机の大きさを棒グラフで、累計の読む量を折れ線で示した図。机が毎周1単位ずつ増えると、10周で累計55単位になる 1周ごとに読む量(その周の机の大きさ) 0 5 10 12345 678910 周回(1周め〜10周め) 毎周、机が1単位ずつ大きくなる 累計の読む量 0 20 40 60 12345 678910 15 55 10 周回(1周め〜10周め) 机が毎周大きくなる 机が一定
図13-2机が毎周1単位ずつ大きくなると、10周の累計は1+2+…+10=55単位。机の大きさが変わらなければ10単位で済む(数値は説明のための相対値)

左の棒グラフが、各周で頭脳が読む量です。1周めは1単位、2周めは2単位、10周めには10単位になります。右の折れ線は、それを積み上げた累計です。5周めまでの累計は1+2+3+4+5=15単位、10周めまでの累計は1+2+…+10=55単位です。

点線と比べてみてください。もし机の大きさが毎周1単位のまま変わらなければ、10周の累計は10単位です。机が育つだけで、同じ10周でも5倍以上の量を読むことになります。

周回数を増やすと、差はさらに開きます。同じ増え方で20周回すと、累計は1+2+…+20=210単位です。周回数は2倍なのに、累計の読む量は4倍近く(55から210)に増えます。これが、累計は周回数に比例するより速く増えるということの意味です。

エージェントの費用は「1周いくら」の掛け算ではありません。周回が増えるほど、1周あたりの費用そのものが大きくなるのです。

実際の机は、1周めから運用者の指示や依頼文を載せているので、最初からある程度の大きさがあります。また、大きな検索結果が載った周には一気に大きくなり、要約して詰めた周には小さくなります(第5章)。それでも、「長く回るほど、1周ごとの読む量が増えていく」という傾向そのものは変わりません。

佐藤さんの調査に当てはめると、5社目のE社を調べている周の頭脳は、A社からD社までの検索結果や記事を机の上に載せたまま読み直しています。A社を調べていたときより、1周あたりの費用は大きくなっているわけです。

13.3費用を押し上げる要因

13.2節の仕組みが分かると、どんなときに費用が膨らむのかが、理屈として見えてきます。要因は、どれも「机を大きくする」か「周回を増やす」か「同じことを何度もさせる」のどれかにつながっています。

要因なぜ増えるか抑え方
長い机(資料の渡しすぎ)載せた資料は、以後のすべての周で読み直される。「念のため」の資料も、周回の数だけ費用になる(第5章)判断に必要な資料を選んで渡す。資料の山からは必要な部分だけを探して載せる。区切って机を新しくする
考える時間答える前に書き出す下書きも、書いた断片として数えられる。難しい判断ほど下書きは長くなる(第2章)考えを深めさせるのは、判断が難しく誤りの影響が大きい場面に絞る
複数のエージェント机の数だけ読み直しが起き、共通の説明を各机に載せる必要がある。指揮役が報告をまとめる分も加わる(第7章)1つで済むなら1つで。分ける理由がはっきりしている部分だけを分ける
堂々巡り成果に結びつかない周が積み上がる。しかもその間も机は育ち続け、1周ごとの費用が増えていく(第3章・第9章)回数・時間・費用の上限を決める。同じ型の行動が続いたら止まって人に相談させる
大きな道具の結果検索結果やファイルの全文がそのまま机に載ると、以後の周でずっと読み直される道具が必要な部分だけを返すようにする。結果を短くまとめてから机に載せる
やり直し最初から回し直すと、それまでにかかった費用がもう一度かかる。最後に気づくほど、やり直す範囲は広い早い段階にチェックポイントを置く(第6章)。誤った部分だけを直す
表13-1 費用を押し上げる6つの要因と、それぞれの抑え方

表の中で、特に注意したい組み合わせがあります。堂々巡りと長い机が重なったときです。第3章の作業記録で、D社の公式発表を探して言い換えの検索を3回繰り返した場面がありました。あの3回は、どれも成果に結びつきませんでした。それでいて、検索結果は毎回机に積み上がり、後の周で読み直される量を増やしています。堂々巡りは、その場で費用がかかるだけでなく、その後のすべての周を高くするのです。

もう1つはやり直しです。佐藤さんが成果物を受け取ってから「比べる項目が上司の意図と違う」と気づいた場合、調査からやり直すと、全体の費用がほぼもう一度かかります。第6章で「早い誤りほど安く直せる」と述べたのは、品質の話であると同時に、費用の話でもあります。

表の「抑え方」の列が、第5章(机)、第6章(計画)、第7章(複数のエージェント)、第3章(上限)で学んだこととほぼ重なっていることにも注目してください。費用を抑える工夫は、特別な節約術ではありません。机を整え、早めに確かめ、むやみに分けないという、質を保つための設計と同じものです。

13.4時間はどこでかかるか

費用と並んで気になるのが、どれくらい時間がかかるかです。エージェントの仕事の時間は、大きく3つに分けられます。

  • 頭脳が書く時間:頭脳は断片を1つずつ予測して書いていくので、書く量が多いほど時間がかかります。考えを長く書き出させれば、その分だけ待つことになります(第2章)。
  • 道具の応答待ち:検索の結果が返ってくるまで、ページを読み込むまで、ファイルを処理し終わるまで、ループは次に進めません。外部の仕組みの混み具合によっても変わります。
  • 人の確認待ち:取り返しのつかない行動の前に止まる設定(第1章のLEVEL 3、第8章)や、上限に達して相談してきたとき、人が応じるまでエージェントは止まったままです。

第7章で見たように、担当役に分けて並行に動かせば、道具の応答待ちを重ねて進められるので、終わるまでの時間は短くなりやすくなります。ただしそれは待ち時間が短くなるだけで、頭脳が読む量と書く量の合計は、机の数が増える分むしろ増えます。速さと引き換えに費用を払う形です。

実際の時間の内訳は、仕事によって大きく違います。ここでは、佐藤さんの調査がある日どう進んだかを、時間の記録として追ってみましょう。時刻と所要時間は説明のための例です。

時間の記録 / 佐藤さんの調査(説明のための例)9:00–12:10
START

9:00 佐藤さんが依頼文を整え、エージェントに渡す。人の時間:約10分。「最近」の範囲や比べる項目を書き添えた

ACT

9:10–9:40 A社〜C社の検索と、公式発表の読み込み。頭脳が書いている時間より、検索結果やページの読み込みを待つ時間のほうが長い

CHECK

9:40–10:30 D社の公式発表が見つからず、言い換えの検索を繰り返す。回数の上限に達して止まり、佐藤さんに相談の連絡を送る。エージェントが動いた時間のおよそ半分が、この区間に使われた。机も大きくなった

WAIT

10:30–11:20 佐藤さんは会議中。エージェントは止まったまま返事を待つ。この間、頭脳の費用はほとんどかからないが、時間は進む

ACT

11:20–11:40 「見つからない会社は空欄にし、その旨を書く」という返事を受けて再開。E社を調べ、比較表と要約を書く。頭脳が書く量が最も多い区間。机も最も大きい

CHECK

11:40–12:10 佐藤さんが作業記録と成果物を確かめる。E社の行を出典と照らし合わせる。人の時間:約30分(第11章)

DONE

12:10 上司に提出。全体で約3時間10分。エージェントが動いた時間は約1時間40分、人の時間は約40分、待ち時間は約50分

図13-3 時間の記録。全体の時間のうち、エージェントが動いていたのは半分ほどで、残りは人の作業と待ち時間だった(数字は説明のための例)

この記録から、3つのことが読み取れます。

1つめは、いちばん長い待ちが人の側で生まれていることです。エージェントがどれだけ速くなっても、10:30から11:20の50分は縮みません。止まる場所(第8章)を決めるときは、そこで誰が、どれくらいの早さで応じられるかも一緒に考える必要があります。

2つめは、堂々巡りの区間が、時間でも費用でも大きいことです。D社の区間は成果に結びつかなかったうえに、机を大きくし、後半の周を高くしました。始める前に「見つからない会社は空欄でよい」と一言添えていれば、この区間と待ち時間の両方が短くなった可能性があります(第12章)。

3つめは、人の時間がゼロにはならないことです。依頼を整える10分と、確かめる30分は、任せ方を良くしても残ります。むしろ、この40分を惜しむと、誤りが上司に届くか、やり直しで何倍もの時間を失うことになります。

13.5速さ・安さ・正確さの釣り合い

ここまでの話をまとめると、エージェントの使い方には、速さ・安さ・正確さの3つの間に引っぱり合いがあることが分かります。

  • 正確さを上げようとすると、考える時間を取らせる、点検役を置く(第7章)、人が確かめる(第11章)といった手が必要になり、費用も時間も増えます。
  • 速さを上げようとすると、並行に動かして費用が増えるか、確かめる手順を省いて正確さが下がります。
  • 安さを優先すると、周回を少なく、机を小さく、確認を軽くすることになり、正確さや、ときには速さも犠牲になります。
速さ・安さ・正確さを頂点とする三角形の図。仕事ごとに三角形の中のどこを目指すかが違う 正確さ 速さ 安さ 社外に出す資料 正確さを最優先 上司に出す比較表 正確さ寄り、急がない 急ぎの状況把握 速さ寄り、要点だけ アイデア出し・下書き 速さと安さ。正確さは後で人が補う
図13-4速さ・安さ・正確さを同時に最大にはできない。仕事ごとに、三角形のどこを目指すかを先に決める

大切なのは、3つを同時に最大にすることはできない、と最初から受け入れることです。そのうえで、仕事ごとに何を優先するかを、任せる前に決めておきます。

社外に出す資料や、数字を含む報告は、間違えたときの影響が大きいので、正確さを優先します。時間と費用がかかっても、確かめる手順は省きません。一方、企画会議の前のアイデア出しや、たたき台の下書きは、多少の誤りがあっても人がすぐに気づいて直せます。こうした仕事では、速さと安さを優先し、確かめる手間は軽くしてかまいません。

佐藤さんの比較表は、上司に出すものなので正確さ寄りです。ただし、急ぎではないので、並行に動かして速さを買う必要は薄いでしょう。どこを目指すかが決まれば、エージェントを分けるか、どこで止めるか、どれだけ確かめるかが、自然に決まっていきます。

反対に、優先順位を決めないまま任せると、「急ぎの下書きなのに丁寧に回りすぎて高くついた」「社外に出す資料なのに確認が軽すぎた」という食い違いが起きます。釣り合いは、エージェントが自分で取ってくれるものではありません。頼む側が決めることです。

13.6上限と見積もり

最後に、費用と時間を前もって管理する方法を考えます。ポイントは「上限を決める」「小さく試して測る」「正しく比べる」の3つです。

上限を決める

第3章で、ループが止まる条件の1つとして「上限」を挙げました。上限には、回数(何周まで)、時間(何分まで)、費用(いくらまで)の3種類があります。エージェントは堂々巡りに自分で気づけないことがあるため、エージェント自身の判断とは別のところで、確実にループを止める安全装置が必要です。

13.2節で見たように、費用は後半ほど1周あたりが大きくなります。そのため、回数の上限だけでは、費用を十分に抑えられないことがあります。机が大きく育った状態での10周は、始めたばかりの10周よりずっと高くつくからです。費用そのものにも上限を置いておくと安心です。

上限に達したときにどう止まるかも決めておきます。何も残さずに止まるのではなく、「どこまで進んだか」「何が見つからなかったか」を作業メモに書いてから止まり、人に相談させる。そうすれば、続きから再開でき、それまでの費用が無駄になりません。

小さく試して、1回あたりを測る

初めての種類の仕事を任せるとき、費用と時間を机上で正確に見積もるのは困難です。周回数は事前に決まらず、どの道具の結果がどれだけ大きいかも、やってみないと分かりません。

そこで、まず小さく試します。佐藤さんの例なら、いきなり5社を任せるのではなく、1社だけで回してみます。そして、何周かかったか、どれくらい時間がかかったか、どれくらい費用がかかったか、確かめるのに人の時間がどれだけ要ったかを記録します。これが、見積もりの物差しになります。

ただし、1社分の結果を単純に5倍してはいけない場合があります。1つのエージェントが同じ机のまま5社を続けて調べると、後の会社ほど机が大きくなり、1社あたりの費用が増えていくからです(13.2節)。会社ごとに区切って机を新しくする進め方なら、5倍に近い見積もりで済みます。どう区切るかで、見積もりの立て方そのものが変わるのです。

人がやる場合と比べるときは「総額」で

エージェントに任せるべきかを判断するとき、人が自分でやる場合と比べることがあります。このとき、頭脳の利用料と人の作業時間だけを比べると、判断を誤ります。比べるべきは、確認とやり直しを含めた総額です。

比べる項目人だけで進めるエージェント+人の確認
作業時間長い。調べる・読む・書くをすべて人が行う人の作業時間は短い。依頼を整える時間は必要
確認時間自分で調べた分は経緯を知っているので、確認は比較的軽い経緯を作業記録で追う必要があり、無視できない時間がかかる(第3章・第11章)
やり直し途中で気づいて直しやすい最後に気づくと、回し直しで費用と時間がもう一度かかる
待ち時間人の空き時間に左右されるエージェントは速いが、人の確認待ちで止まることがある
費用人の時間が中心頭脳と道具の利用料に、人の時間(依頼・確認・やり直し)を加えたもの
表13-2 人だけで進める場合と、エージェントに任せて人が確かめる場合の比べ方

表の右の列で見落とされやすいのが、確認時間とやり直しです。エージェントの作業が速く、利用料が人の作業時間より小さく見えても、確認に時間がかかる仕事や、やり直しが起きやすい仕事では、総額では人がやるほうが早く安いこともあります。逆に、確認が軽く済み、同じ種類の仕事を何度も任せられるなら、エージェントの利点は大きくなります。どんな仕事を任せるべきかは、第14章でこの見方を使って考えます。

よくある誤解

AIに任せれば、人の手間と費用はほぼゼロになる。

人の手間は、なくなるのではなく形を変えます。調べる・書くといった作業の時間は減りますが、依頼を整える時間、途中の相談に応じる時間、作業記録と成果物を確かめる時間は残ります。確かめることを省けば、誤りが外に出るか、後でやり直す費用が生まれます。

費用も同じです。頭脳と道具の利用料は、ループが長く回るほど、机が大きくなるほど、分けるほど増えます。比べるときは、利用料だけでなく、人の時間とやり直しを含めた総額で考えてください。

DEEP DIVE / もう一歩深く

単価が下がっても、総額が下がるとは限らない

頭脳の利用単価は、技術の進歩とともに下がっていく傾向があります。同じ量の文章を読ませる・書かせる費用が、以前より小さくなる。これは事実として起きてきたことです。それなら、待っていればエージェントの費用の問題は消えるのでしょうか。

そうとは限りません。単価が下がると、使い方のほうが大きくなりやすいからです。机を広く使えるようになれば、資料をたくさん載せたくなります。安くなれば、ループを長く回し、担当役を増やして並行させ、考える時間を長く取らせたくなります。13.2節で見たように、ループの長さと机の大きさは掛け合わさって効くので、使い方が少し大きくなるだけで、総量は単価の下がり方を上回って増えることがあります。結果として、単価は下がったのに請求の総額は増えた、ということが起こりえます。

なお、仕組みによっては、前の周と同じ部分の読み直しを割安にする工夫が使われることもあります。それでも、頭脳が毎周机を読み直すという構造そのものが変わるわけではありません。

ですから、費用を考えるときは「1単位あたりいくらか」という単価ではなく、構造で考えるのが確かです。この仕事は何周くらい回りそうか。机はどこまで大きくなりそうか。分ける必要はあるか。どこで人が確かめるか。この問いは、単価が上がっても下がっても使い続けられる物差しです。新しい頭脳が「安くなった」というニュースを見たときも、自分の仕事の総額がどう変わるかは、この構造に当てはめて初めて判断できます(第16章)。

確認確認問題

ループの周回数を2倍にすると、費用が2倍より大きく増えやすいのはなぜですか。

解説を見る

読む量はその周の机の大きさです。道具の結果ややりとりが積み上がって机が育つと、1周あたりの読む量が増えていきます。机が毎周1単位ずつ増える例では、10周の累計は55単位、20周では210単位になり、周回数の2倍に対して4倍近くに増えます。

5社の調査を、5つの担当役に分けて並行に進めることにしました。時間と費用について、最も適切な見方はどれですか。

解説を見る

並行にすれば道具の応答待ちを重ねて進められるので、終わるまでの時間は短くなりやすくなります。しかし机の数だけ読み直しが起き、共通の説明を各机に載せ、指揮役がまとめる分も加わるため、合計の量は増えるのが普通です(第7章)。

ある仕事を、人が自分でやるかエージェントに任せるかで比べます。比べ方として最も適切なのはどれですか。

解説を見る

エージェントに任せても、人の手間はなくならず形を変えます。確認に時間がかかる仕事や、やり直しが起きやすい仕事では、総額では人がやるほうが早く安いこともあります。単価や作業時間だけでは判断を誤ります。

この章のまとめ

  • 頭脳の費用は、読む量と書く量(断片の数)に応じてかかるのが一般的。読む量は、その周の机の上の全部。ほかに道具の利用料と、人の時間がかかる。
  • 頭脳は毎周、机を最初から読み直し、机は周回とともに大きくなる。そのため累計は周回数に比例するより速く増える(机が毎周1単位ずつ増えれば、10周で55単位)。
  • 費用を押し上げるのは、長い机、考える時間、複数のエージェント、堂々巡り、大きな道具の結果、やり直し。抑え方は、質を保つための設計と同じ。
  • 時間は、頭脳が書く時間・道具の応答待ち・人の確認待ちでかかる。並行化は待ち時間を縮めるが、費用は増える。
  • 速さ・安さ・正確さは同時に最大にできない。仕事ごとに何を優先するかを、頼む側が先に決める。
  • 回数・時間・費用の上限を置き、小さく試して測る。人と比べるときは、確認とやり直しを含めた総額で比べる。単価ではなく構造で考える。
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