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PART 03 / CHAPTER 14

任せる仕事の選び方──
4つの物差しで仕分ける

第2部では、エージェントに仕事を任せるための設計の道具をそろえました。第3部では、それを実際の仕事に当てはめます。最初の問いは「どの仕事を任せるか」です。決め手は、仕事の難しさではありません。

目安 約20分図解 3点確認問題 3問
この章で分かること
  • 任せるかどうかを、仕事を作業に分けたうえで、確かめやすさ・取り返しやすさ・頻度・判断のあいまいさの4つの物差しで判断できる
  • 確かめやすさと取り返しやすさの地図を使って、作業を「任せる」「任せて確かめる」「下書きまで任せる」「人がやる」に仕分けられる
  • エージェントに向かない仕事の典型とその理由が分かり、小さく始めるための確認項目を使える

14.1「何でも任せる」でも「何も任せない」でもない

第2部では、エージェントに仕事を任せるための道具を一通りそろえました。権限を段階で渡すこと(第8章)、失敗の型を知ること(第9章)、乗っ取りと漏えいの経路を断つこと(第10章)、確かめる仕組みを作ること(第11章)、頼み方の原則(第12章)、そして費用と時間の見方(第13章)です。第3部では、これらを実際の仕事に当てはめます。最初の問いは、そもそも、どの仕事を任せればよいのかです。

この問いには、両極端な答えが出がちです。1つは「エージェントは何でもできるのだから、仕事ごと任せればよい」。もう1つは「どうせ間違えるのだから、結局は自分でやったほうが早い」。正反対に見えますが、どちらも仕事を1つのかたまりとして見ている点では同じです。

佐藤さんの仕事で考えてみましょう。「主要5社の比較表と要約を作り、企画会議に出す」という仕事を丸ごと任せれば、比較の軸を何にするか、会議でどう位置づけるかという、佐藤さんや上司が考えるべき判断まで手放すことになります。逆に丸ごと自分でやれば、5社の発表を探して読むという、誰がやっても答えが変わらない作業にまで、自分の時間を使うことになります。

仕事を丸ごと見ると任せるか任せないかの二択になるが、作業に分けると任せ方が作業ごとに違うことを示す図 丸ごとで見ると 5社の比較表と要約を 作り、企画会議に出す 全部任せる? → 判断まで手放してしまう 全部自分でやる? → 手間が減らない 作業に 分ける 第6章 作業ごとに見ると ① 5社の公開情報を集める ② 比較の軸を決める ③ 決めた軸で表を埋める ④ 要約を書く ⑤ 会議での位置づけを決める ⑥ 上司に提出する 任せる 人がやる 任せる 下書きまで任せる 人がやる 任せて確かめる
図14-1丸ごとで見ると「任せるか、任せないか」の二択になる。作業に分けると、1つの仕事の中に任せ方の違う部分が混ざっていることが見える

第6章で見たように、大きな仕事は目標・小目標・作業に分解できます。任せるかどうかも、この分解した単位で判断します。図14-1の右側のように、1つの仕事の中には、任せやすい作業と人に残すべき作業が混ざっているのが普通です。なぜこう仕分けられるのかは、14.4節で順に確かめます。問いは「この仕事を任せるか」ではなく、「この仕事のどの部分を、どこまで任せるか」なのです。

では、部分ごとに何を見て判断すればよいのでしょうか。最初に押さえておきたいのは、判断の基準が仕事の難しさではないということです。難しい作業でも、結果を簡単に確かめられ、間違えても直せるなら任せられます。簡単な作業でも、間違いに気づけず、気づいたときには取り返しがつかないなら、任せきりにはできません。任せやすさを決めるのは、作業の難しさではなく、作業の性質です。

任せるかどうかは、仕事を丸ごとではなく、作業に分けて判断する。基準は難しさではなく、作業の性質である。

14.24つの物差し

作業の性質を測る物差しは、4つあります。どれも、第2部ですでに出会っている考え方です。

物差し1 確かめやすさ

第11章では、仕事の中身を確かめやすさで3つの段に分けました。機械的に確かめられる(段1)、元の資料に当たれば確かめられる(段2)、人の判断が要る(段3)です。そして「作るより確かめるほうが簡単な仕事ほど任せやすい」と述べました。

この物差しが大事なのは、任せた利点が、確かめる手間を差し引いた分しか残らないからです。たとえば表を埋めるのに1時間かかる作業でも、確かめるのが10分で済むなら、差し引きで手間は大きく減ります。確かめるのに作るのと同じ手間がかかるなら、任せても手間は減りません。

物差し2 取り返しやすさ

第8章では、行動を「取り返しのつきやすさ」と「影響範囲」の2つの軸で仕分けました。間違えたとき、元に戻せるか。その結果が自分の手元で止まるか、社内や社外に届くか。この2つを合わせたものが、ここでいう取り返しやすさです。

取り返しやすい作業なら、多少の誤りがあっても、見つけて直せば済みます。取り返しにくい作業では、1回の誤りがそのまま損害になります。第8章で見たとおり、頭脳の賢さが下げるのは間違える頻度であって、間違えたときの大きさではありません。

もう1つ、見落としやすい点があります。作業そのものは書き直せても、その結果の上に後の作業が積み重なる場合です。第6章の図6-4で見たように、早い段階の誤りは、気づくのが遅れるほど直す範囲が広がります。後の作業すべての土台になる作業は、それ自体はただの文章でも、実質的には取り返しにくい側に寄ります。

物差し3 頻度

同じ種類の作業を、どれくらい繰り返すか。この物差しは、任せられるかどうかよりも、任せるための準備に手間をかける価値があるかを決めます。

繰り返す作業なら、正解の分かった例題を集めた問題集(第11章)、依頼の6要素を並べたひな形(第12章)、絞り込んだ権限の設定(第8章)を一度用意すれば、2回目以降はそれを使い回せます。準備の手間は、回数で割られていきます。しかも、問題集があれば確かめる手間が下がり、権限を絞れば取り返しやすさが上がります。つまり頻度は、ほかの物差しの上での位置を動かす投資を、回収できるかどうかを決めているのです。

逆に1回きりの作業では、こうした準備の手間を回収できません。第13章で見たように、依頼を整える時間と確かめる時間を含めた総額で比べると、自分でやったほうが早いことも少なくありません。

物差し4 判断のあいまいさ

その作業の正解が1つに決まるかどうか。5社のサービスの発表日は、調べれば1つに決まります。一方、「会議でどの論点を強調するか」には、決まった正解がありません。会社の方針、上司の関心、関係する部署との兼ね合い、そして誰がその判断に責任を持つのか。こうしたことが絡む作業ほど、あいまいさは高くなります。

あいまいさが高い作業では、頭脳は机に載っていない前提を、もっともらしい一般論で埋めてしまいます(第6章「もう一歩深く」)。正解がないので、問題集も作れません。あいまいさは確かめやすさを下げるだけでなく、「誰が決めたのか」という責任の問題を連れてきます。

物差し問い任せやすい側任せにくい側
確かめやすさ
(第11章)
結果が正しいかを、作るより少ない手間で確かめられるか機械的に、または出典に当たれば確かめられる(段1・段2)人がじっくり考えないと確かめられない。確かめるのに作るのと同じ手間がかかる
取り返しやすさ
(第8章)
間違えたとき、どこまで届き、元に戻せるか自分の手元で止まり、消せば戻せる。読むだけ、下書きまで社内や社外に届き、戻せない。後の作業すべての土台になる
頻度
(第11〜13章)
同じ種類の作業を繰り返すか繰り返す。問題集・ひな形・権限の設計に手間をかけても回収できる1回きりで小さい。準備の手間を回収できない
判断のあいまいさ正解が1つに決まるか事実や決まりごとで答えが決まる価値判断、人間関係、責任が絡む。人によって正解が違う
表14-1 任せやすさを測る4つの物差し

4つのうち、土台になるのは確かめやすさと取り返しやすさの2つです。この2つは、言いかえれば「間違いに気づけるか」と「間違えたら困るか」です。エージェントは間違える前提で使う(第9章)以上、任せてよいかどうかは、まずこの2つで決まります。頻度とあいまいさは、その判断を調整する物差しです。次の節で、この関係を1枚の地図にします。

14.3仕事の地図

確かめやすさを横軸に、取り返しやすさを縦軸にとると、作業は4つの区分に分けられます。

確かめやすさを横軸、取り返しやすさを縦軸にとり、作業を任せる・任せて確かめる・下書きまで任せる・人がやるの4区分に分けた図 取り返しやすさ(第8章) 取り返し やすい 取り返し にくい 確かめにくい 確かめやすい 確かめやすさ(第11章) 下書きまで任せる たたき台として受け取り、 直して決めるのは人 例:要約、軸の候補出し 任せる 機械的なチェックと 抜き取りで確かめる 例:公開情報の収集、表の転記 人がやる 材料集めや論点の整理 だけを手伝わせる 例:会議での位置づけ、最終判断 任せて確かめる 準備は任せ、実行の直前で 止めて人が確かめる 例:上司への提出 頻度:繰り返す作業は、問題集・ひな形・権限の設計で右上へ動かせる あいまいさ:正解が1つに決まらない部分は左へ寄り、決めることは人に残る
図14-2仕事の地図。確かめやすさと取り返しやすさで4つに分け、頻度とあいまいさで位置を調整する

4つの区分を、順に見ていきましょう。

  • 右上「任せる」:確かめやすく、取り返しやすい作業です。間違いがあっても見つけやすく、見つけたら直せば済みます。確認は、第11章で見た機械的なチェックと抜き取りで足ります。エージェントに最初に任せるのは、この区分です。
  • 左上「下書きまで任せる」:取り返しやすいけれど、確かめにくい作業です。要約や文案のように、出来の良し悪しを人が判断するしかないもの。エージェントの出力を完成品ではなくたたき台として受け取り、人は白紙から書く手間を省いて、判断と仕上げに集中します。大切なのは、たたき台を下書きのまま止めておくことです。
  • 右下「任せて確かめる」:確かめやすいけれど、取り返しにくい作業です。上司への提出のように、中身は確かめやすいのに、実行すると戻せないもの。準備は任せ、実行の直前で止めて人が確かめます(第8章の承認)。確かめやすいので1回の承認は軽く済み、承認を絞っておけば承認疲れも起きにくい区分です。
  • 左下「人がやる」:確かめにくく、取り返しにくい作業です。間違いに気づきにくく、気づいたときには戻せません。ここは人が自分で行い、エージェントには材料集めや論点の整理といった、別の区分に入る部分だけを手伝わせます。

頻度とあいまいさで、位置を調整する

地図の上の位置は、作業の名前だけで決まるわけではありません。残りの2つの物差しが、位置を動かします。

頻度が高い作業は、右上へ動かす投資ができます。問題集があれば、結果を正解と照らし合わせられるので、確かめやすくなります。権限を下書きまでに絞れば、取り返しやすくなります。こうした準備は1回きりの作業では割に合いませんが、同じ種類の作業を何度も任せるなら回収できます。

あいまいさが高い作業は、左へ寄ります。正解が1つに決まらない部分は、どれほど丁寧に照合しても確かめきれないからです(第11章の段3)。さらに、責任が絡む判断は、地図の上のどこにあっても、決めるという行為そのものを人に残します。エージェントに任せられるのは、判断の材料をそろえるところまでです。

確かめやすさと取り返しやすさで地図の上の位置を決め、頻度とあいまいさで調整する。位置は作業の名前で固定されておらず、仕組みで動かせる。

14.4佐藤さんの仕事を仕分ける

では、佐藤さんの仕事を、4つの物差しで実際に仕分けてみましょう。「主要5社の比較表と要約を作り、企画会議に出す」までを、図14-1と同じ6つの作業に分けます。

作業確かめやすさ取り返しやすさ頻度あいまいさ区分
① 5社の公開情報を集める高い。出典を開けば照合できる(段2)高い。読むだけで何も変えない似た調査は今後もある低い。事実を集める任せる
② 比較の軸を決める低い。目的に合うかは人の判断(段3)低め。後の作業すべての土台になる調査ごとに変わる高い。上司の関心や会議の目的による人がやる(候補出しは任せてよい)
③ 決めた軸で表を埋める高い。そろっているかは段1、中身は段2高い。下書きのうちは直せる繰り返す低い。軸が決まれば答えはほぼ1つ任せる
④ 要約を書く中くらい。事実は段2、何を強調するかは段3高い。下書きのうちは直せる繰り返す中くらい下書きまで任せる
⑤ 会議での位置づけを決める低い。正解が1つに決まらない低い。会議で共有されると戻しにくい会議ごとに変わる高い。方針・関係部署・責任が絡む人がやる
⑥ 上司に提出する高い。宛先と添付を見れば分かる低い。送ったら戻せない(第8章)繰り返す低い任せて確かめる
表14-2 佐藤さんの仕事を6つの作業に分け、4つの物差しで評価した例

この評価を、14.3節の地図に置くと次のようになります。

佐藤さんの6つの作業を、確かめやすさと取り返しやすさの地図に置いた図 下書きまで任せる 任せる 人がやる 任せて確かめる 取り返し やすい 取り返し にくい 確かめにくい 確かめやすい 確かめやすさ 1 公開情報を集める 出典を開けば照合できる 3 表を埋める 軸が決まれば答えは1つ 4 要約を書く 何を強調するかは人 2 比較の軸を決める 後の作業すべての土台 5 会議での位置づけ 価値判断と責任が絡む 6 上司に提出する 送ったら戻せない
図14-3佐藤さんの6つの作業を地図に置いた結果。番号は表14-2の①〜⑥に対応する

結論をまとめると、次のようになります。①の情報収集と③の表を埋める作業はエージェントに任せ、出典と取得日を残させたうえで、第11章のやり方で確かめます。④の要約は下書きまで任せ、結論の文は佐藤さんが自分で直します。⑥の提出は送る直前で止め、佐藤さんが中身を見てから送ります。そして②の比較の軸と⑤の会議での位置づけは、佐藤さんと上司が決めます。

順番にも注意が要ります。③の表は、②で決めた軸に沿って埋めるものです(第6章の依存関係)。②を人が決めてから③を任せる、という順にしておかないと、エージェントが自分で軸を決めて表を埋め始めてしまいます。

なぜ比較の軸は人に残るのか

比較の軸を決めるのは、一見すると表の列を決めるだけの小さな作業です。けれども、4つの物差しで見ると、任せにくい側がそろっています。

まず、確かめにくい。第11章の図11-2で、佐藤さんは照合をすべて終えたあとに「価格の列がない」ことに気づきました。目的に照らして足りないものは、表のどこにも書かれていないので、照合では見つかりません。次に、取り返しにくい。軸は③の表と④の要約すべての土台です。軸が上司の意図とずれていれば、第13章で見たように、調査からやり直すことになりかねません。そして、あいまいです。上司がこの表を何に使うのか、来月の企画会議で何を決めたいのかは、佐藤さんと上司しか知りません。

ただし、エージェントに軸の候補を出させるのはかまいません。「価格・対象顧客・開始時期・提供のしかた」のような候補を並べさせ、佐藤さんが選んで決める。これは地図の左上「下書きまで任せる」の使い方です。1つの作業の中の「候補を出す」部分と「決める」部分を、さらに分けているわけです。

なぜ会議での位置づけは人に残るのか

⑤は、調査の結果を企画会議でどう使うかを決める作業です。たとえば「B社の新サービスは自社の計画と重なるので、計画の見直しを提案する」と位置づけるのか、「業界の動きの共有にとどめる」のか。これは事実の整理ではなく、自社にとって何を意味するかという価値判断です。

この判断には、机に載っていない情報が多く関わります。社内でこれまでどんな議論があったか、誰がどの案に関わっているか、どこまで踏み込んだ提案なら受け入れられそうか。仮にそれらを机に載せられたとしても、その判断を会議で説明し、結果を引き受けるのは佐藤さんと上司です。エージェントが書いた位置づけを、そのまま会議に出すことはできません。人の役割がどう変わるかは、第15章で詳しく扱います。

仕分けた結果、佐藤さんの時間は、比較の軸と会議での位置づけ、そして確かめる作業に集まる。第13章で見た「人の時間」は、なくすものではなく、ここに使うものである。

14.5向かない仕事の典型

4つの物差しで見ると、エージェントに向かない仕事には、いくつかの典型があります。どれも、仕事の難しさではなく性質が理由です。

確かめるのに、作るのと同じ手間がかかる仕事

たとえば、数百件の問い合わせの中から「対応が必要なものをすべて」拾い出す仕事です。拾い出されたものが本当に対応の必要なものかは、1件ずつ見れば確かめられます。ところが、拾い漏れがないことを確かめるには、結局すべてを自分で読むしかありません。「あるもの」が正しいかは確かめやすく、「ないもの」がないことを確かめるのは難しいのです。確認の手間が任せた利点を打ち消すので、漏れが許されない用途では手間が減りません。ざっと傾向をつかむ用途のように、多少漏れても困らないなら、任せる意味はあります。

責任の所在が問われる最終判断

採用の可否、取引条件の決定、上司に出す結論などです。こうした判断は、後から「なぜそう決めたのか」を問われます。説明し、結果を引き受けるのは人です。エージェントは判断の材料を並べることはできても、責任を負うことはできません。材料集めと選択肢の整理は任せ、決めるのは人、と分けます。

機密と外から来た文章を同時に扱い、外へ送る仕事

第10章で、機密に触れる・外の文章を読む・外へ送れる、の3つがそろうと、漏えいの経路が一本につながることを見ました。たとえば、社外秘の自社の企画と外部の記事を突き合わせ、その結果を関係者にメールで送る仕事です。この危険は、成果物を確かめても見えません。読んだ記事に紛れ込んだ命令で機密が外に出ても、成果物そのものはきれいなままかもしれないからです。仕事を丸ごと任せず、3つが1つの机にそろわないように作業を分けます。

1回きりで、小さい仕事

短い返信を1通書く、一度しか使わない小さな表を手直しする、といった仕事です。第13章で見たとおり、比べるべきは確認とやり直しを含めた総額です。依頼を整える時間と確かめる時間を足すと、自分でやったほうが早いことがよくあります。問題集やひな形を作っても、使い回す機会がありません。こうした仕事には、第1章で見た答えるAIで十分なことも多いでしょう。

正解が人によって違う価値判断

どの企画を優先するか、部下をどう評価するか、お詫びの文面をどんな調子にするか、といった仕事です。正解が1つに決まらないので、問題集が作れず、出来を測る物差しがありません。頭脳は机にない価値観を一般論で埋めるので、それらしいけれど自社には合わない答えが出やすくなります。論点や選択肢を並べさせることはできますが、選ぶのは人です。

5つの典型は、理由がそれぞれ違います。1つめは確かめやすさ、2つめと5つめは判断のあいまいさと責任、3つめは安全、4つめは費用の問題です。「向かない」と判断したときも、どの理由で向かないのかを言えるようにしておくと、仕事の形を少し変えて任せられるようにする道が見えてきます(章末の「もう一歩深く」)。

14.6小さく始める

任せる作業を選んだら、いきなり全部を任せず、小さく始めます。考え方は、第2部で学んだことの組み合わせです。

  • 1つの作業から始める:佐藤さんなら、まず①の情報収集だけを、それも1社分だけ任せてみます。第13章で見たとおり、1社分を回せば、何周かかったか、時間と費用、確かめるのに要った人の時間を測れます。うまくいったら、③の表を埋める作業へ広げます。
  • 問題集で測る:正解の分かった例題を数問用意し、任せた結果と比べます(第11章)。似た社名の会社、公式発表のない会社など、間違えやすい例題を入れておくと、「うまくいった気がする」ではなく「どの例題で落としたか」で判断できます。
  • 権限は狭く始めて広げる:読む・調べる・下書きまでから始め、作業記録で実績を確かめながら一段ずつ広げます(第8章)。送る・動かすといった戻せない行動は、どれだけ実績を積んでも人の確認を外しません。
  • 効果は総額で測る:任せた結果を、依頼を整える時間、確かめる時間、やり直しを含めた総額で、自分でやった場合と比べます(第13章)。速く終わったことだけで判断しません。

始める前に確かめておきたいことを、チェックリストにまとめます。

確かめること問い佐藤さんの例
作業に分けたか仕事を丸ごとではなく、作業の単位で書き出したか収集・軸・表・要約・位置づけ・提出の6つに分けた
4つの物差しで見たか確かめやすさ・取り返しやすさ・頻度・あいまいさを、作業ごとに見たか表14-2を作った
人に残す部分を決めたか決める部分、責任を持つ部分がどの作業か言えるか比較の軸と、会議での位置づけ
確かめ方を先に決めたか何を、誰が、どの段で確かめるか。出典と取得日を残させるかそろっているかは手順で、出典の照合は点検役と佐藤さんで
問題集の種はあるか正解の分かった例題が数問あるか過去に確かめた会社、似た社名の会社、公式発表のない会社
権限は最小か必要な道具・範囲・期間だけか。戻せない行動の前で止まるか読む・調べる・下書きフォルダへの書き込みまで。送信は佐藤さん
3つの組み合わせはないか機密・外の文章・送る手段が、1つの机にそろっていないか調査役には社外秘の企画メモを見せない
測る項目と戻す基準を決めたか総額のために何を記録するか。どうなったら範囲を狭めるか人の時間とやり直しを記録する。失敗の型が続いたら1社分に戻す
表14-3 任せる前のチェックリスト

最初からすべての項目に答えられなくてもかまいません。答えられない項目があれば、そこが任せる前に決めるべきことだと分かります。小さく始めて測り、問題集とひな形を育てながら広げていく。任せる範囲は、一度決めたら終わりではなく、実績に合わせて動かしていくものです。

よくある誤解

エージェントに向くのは難しい仕事だ(あるいは、簡単な仕事だ)。

難易度は、任せやすさを決めません。たとえば、数百件の公開資料から条件に合うものを探し、出典つきで一覧にする仕事は、人にとっては骨が折れます。けれども一覧の各行は出典を開けば確かめられ、下書きのうちは何度でも直せます。難しくても任せやすい仕事です。

逆に、取引先に短いお礼のメールを送るのは簡単な仕事ですが、送ったら戻せず、宛先や調子を誤れば関係に響きます。簡単でも任せきりにはできず、送る前に確かめるなら、自分で書くのと手間は大差ないかもしれません。

任せやすさを決めるのは、確かめやすさと取り返しやすさです。「難しいからAIに」「簡単だからAIに」という発想は、どちらも作業の性質を見ていません。

DEEP DIVE / もう一歩深く

仕事のほうを「任せられる形」に作り変える

14.3節で、地図の上の位置は固定ではないと述べました。ここではもう一歩進めて、仕事の流れそのものを少し変えることで、任せられなかった作業を任せられる側へ動かす考え方を見ます。第8章で「行動の位置は、仕組みで動かせる」と述べたことを、仕事全体に広げたものです。

出典を残す形にする。成果物の各行に出典と取得日を必ず付ける形にすると、「この情報は本当か」という確かめにくい問いが、出典を開いて照らし合わせる作業(段2)に変わります。地図の上で、作業が右へ動きます。

送信を下書きまでにする。エージェントの仕事を「送る」ではなく「送る下書きを作る」で終わらせ、送るのは人にします。社内や社外に届く行動が、自分の手元で止まる行動に変わり、作業が上へ動きます。

確認の区切りを入れる。長い仕事を最後まで一気に回さず、小目標ごとにチェックポイントを置きます(第6章)。誤りが積み重なる前に止まれるので、後の作業の土台になる作業も取り返しやすくなります。比較の軸のように判断が混ざった作業なら、「候補を出す」と「決める」の間に区切りを入れるのも同じ発想です。

どれも、エージェントの賢さとは関係がありません。変えているのは、仕事の流れのほうです。そして作り変えにも手間がかかるので、頻度の高い仕事ほど割に合います。

注意したいのは、作り変えの目的が「人の判断をなくすこと」ではない点です。出典を残すのは人が確かめるためであり、下書きで止めるのは人が送るかどうかを決めるためです。任せられる形に作り変えるとは、人の判断を、本当に必要な所に集める形にすることです。この考え方は、第15章で人の役割を考えるときの出発点になります。

確認確認問題

エージェントに任せてよいかを判断するとき、この章で「土台になる」とした2つの物差しの組み合わせはどれですか。

解説を見る

確かめやすさは「間違いに気づけるか」、取り返しやすさは「間違えたら困るか」を表します。エージェントは間違える前提で使うので、まずこの2つで地図の上の位置を決め、頻度とあいまいさで調整します。難しさや賢さは、任せやすさを決めません。

佐藤さんの仕事のうち、エージェントに候補を出させるのはかまわないが、決めることは人に残すべき作業はどれですか。

解説を見る

比較の軸は、上司の目的に合っているかを人が判断するしかなく(確かめにくい)、後の表と要約すべての土台になり(取り返しにくい)、会議の目的によって正解が変わります(あいまい)。情報収集と表を埋める作業は、出典を開けば照合でき、下書きのうちは直せるので任せやすい側です。

一度しか使わない小さな表を少し手直しする仕事を、エージェントに任せるかどうか。最も適切な考え方はどれですか。

解説を見る

1回きりで小さい仕事では、依頼を整える時間と確かめる時間が、任せて省ける時間を上回りがちです。問題集やひな形も使い回す機会がないので、準備の手間を回収できません。小さいことは、確認を省いてよい理由にもなりません。

この章のまとめ

  • 任せるかどうかは、仕事を丸ごとではなく作業に分けて判断する。基準は難しさではなく、作業の性質。
  • 物差しは、確かめやすさ・取り返しやすさ・頻度・判断のあいまいさの4つ。土台は「間違いに気づけるか」と「間違えたら困るか」を表す前の2つ。
  • 確かめやすさと取り返しやすさの地図で「任せる」「任せて確かめる」「下書きまで任せる」「人がやる」に分け、頻度とあいまいさで位置を調整する。
  • 佐藤さんの仕事では、情報収集と表を埋める作業を任せ、要約は下書きまで、提出は直前で確かめる。比較の軸と会議での位置づけは人が決める。
  • 向かない典型は、確かめるのに作るのと同じ手間がかかる、責任が問われる最終判断、機密・外の文章・送る手段がそろう、1回きりで小さい、正解が人によって違う、の5つ。
  • 1つの作業から小さく始め、問題集で測り、権限は狭く始めて広げ、効果は総額で測る。仕事の流れを作り変えれば、任せられる範囲は広がる。
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