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PART 01 / CHAPTER 01

答えるAI、手順に沿うAI、
自分で動くAI

「AIエージェント」という言葉は、いまや何にでも付けられています。この章では、チャットのAI、決まった手順を自動で回す仕組み、そしてエージェントの3つを並べ、違いを一言で言えるようにします。答えは「賢さ」ではありません。

目安 約15分図解 3点確認問題 3問
この章で分かること
  • チャット・手順の自動化・エージェントの違いを、「次の一手を誰が決めるか」で説明できる
  • あるサービスが本当にエージェントなのかを、3つの問いで見分けられる
  • エージェントがいつも最良の選択とは限らない理由と、エージェントを形づくる4つの部品が分かる

1.1違いは「次の一手を誰が決めるか」

AIに仕事を頼む形は、大きく3つに分けられます。

1つめは、答えるAIです。質問を送ると答えが返ってくる、いわゆるチャットの形です。返ってきた答えを読んで、次に何をするかを決めるのは人間です。調べ直すのも、別の聞き方をするのも、ファイルに貼り付けるのも、すべて人間の仕事です。

2つめは、手順に沿うAIです。「メールが届いたら、AIに要約させて、決まった表に書き込む」のように、あらかじめ人間が流れを決めておき、その途中の一部をAIが担当します。業界ではワークフロー(決まった作業の流れ)と呼ばれることが多い形です。AIは担当箇所で文章を読み書きしますが、次に何をするかは、最初に作った手順書が決めています。

3つめが、自分で動くAI、つまりエージェントです。人間は「目標」だけを渡します。何を調べるか、どの道具を使うか、結果が足りなければどうするか、いつ終わりにするか。次の一手を、AI自身がその場で選びます。

3つの形で、次の一手を決める主体が違うことを示す図 答えるAI 手順に沿うAI 自分で動くAI 人が質問する AIが答える 人が次を決める 次の一手を決めるのは 人間 ① メールを受け取る ② AIが要約する ③ 表に書き込む ④ 担当者に通知 次の一手を決めるのは あらかじめ作った手順書 目標を渡す AIが選ぶ 調べる?読む? やり直す?終える? 次の一手を決めるのは AI自身
図1-13つの形の違いは、AIの賢さではなく「次の一手を決めるのは誰か」にある

ここで大事なのは、3つのどれにも同じ頭脳(言語モデル)が使われうるということです。同じ言語モデルでも、チャットの画面に置けば「答えるAI」になり、手順書の一部に組み込めば「手順に沿うAI」になり、道具を持たせて目標を渡せば「エージェント」になります。違いを生んでいるのは頭脳の性能ではなく、頭脳の置かれ方なのです。

1.2同じ依頼を、3つの形で頼んでみる

具体的な場面で比べてみましょう。この教材では、全体を通して次の架空の場面を使います。

架空の会社で企画を担当する佐藤さんは、上司から「業界の主要5社が最近出した新サービスを調べて、比較表と1枚の要約にまとめてほしい」と頼まれました。

この仕事を、3つの形それぞれで進めるとどうなるでしょうか。

答えるAI手順に沿うAI自分で動くAI
佐藤さんが渡すもの1つずつの質問あらかじめ作った手順書と、5社の名前目標(「5社の新サービスを比較表と要約に」)
調べる作業佐藤さんが検索し、見つけた記事をAIに貼って要約を頼む手順書に書いた検索先を、決まった順に調べるAIが検索語を考え、足りなければ別の言葉で調べ直す
予想外のこと佐藤さんが気づいて対応する手順書にない事態には対応できず止まるAIがその場で判断する(良くも悪くも)
佐藤さんの手間多い最初の手順作りが重く、あとは少ない少ない(ただし結果の確認は必要)
結果の予測しやすさ高い(自分で動かしている)高い(毎回同じ流れ)低め(毎回道筋が変わりうる)
表1-1 同じ依頼でも、形によって人の役割と結果の性質が変わる

表の最後の行に注目してください。エージェントは手間を大きく減らしてくれますが、その代わりに「毎回どう進めるかが変わりうる」という性質を引き受けることになります。ある日は公式発表から調べ、別の日はニュース記事から調べるかもしれません。5社のうち1社の情報が見つからないとき、手順書なら「見つからない」と止まりますが、エージェントは別の資料で補おうとして、古い情報を拾ってしまうこともあります。

この「柔軟さ」と「予測しにくさ」は、同じコインの表と裏です。どちらか片方だけを手に入れることはできません。この性質は、第6章(計画)、第9章(失敗の型)、第11章(確かめる仕組み)で、何度も形を変えて登場します。

1.3エージェントを見分ける3つの問い

製品の発表や社内の提案で「エージェント」という言葉を見かけたら、次の3つを問いかけてみてください。名前ではなく、中身で見分けられるようになります。

問い1 道具を自分で選んでいるか

検索する、ファイルを読む、表を作る。どの道具をいつ使うかを、AIがその場で決めているでしょうか。それとも、使う道具と順番が最初から決まっているでしょうか。後者なら、それは手順に沿うAIです。

問い2 結果を見て、次の行動を変えているか

検索した結果が期待外れだったとき、検索語を変えたり、別の資料に当たったりするでしょうか。結果に関係なく同じ流れを進むなら、自分で動いているとは言えません。結果を見て次を変えることこそが、エージェントの中心にある動きです(第3章で詳しく追います)。

問い3 終わりを自分で決めているか

「これで目標に届いた」と判断して作業を終えるのは誰でしょうか。決まった回数で終わる、決まった手順の最後に来たら終わる、という仕組みなら、終わりを決めているのは手順書です。

3つとも「はい」ならエージェント。1つでも「いいえ」なら、エージェントの要素を一部に含んだ、手順に沿う仕組みと考えるのが正確です。

どちらが良い・悪いという話ではありません。見分ける目的は、どんな性質を持った仕組みなのかを知り、どこに注意を払えばよいかを判断するためです。手順に沿う仕組みなら手順書の出来を見ればよく、エージェントなら「どう判断したか」の記録を見る必要があります。

1.4自律性はスイッチではなく「つまみ」

ここまで3つに分けて説明してきましたが、実際の境目はなめらかです。同じエージェントでも、どこまで自分で決めさせるかを細かく調整できます。照明のオン・オフのスイッチではなく、明るさを少しずつ変えるつまみのようなものです。

自律性の段階を左から右へ並べた図 LEVEL 0 LEVEL 1 LEVEL 2 LEVEL 3 LEVEL 4 答えるだけ 行動は人がする 提案する 「次はこれを」と 言うが動かない 毎回確認して動く 一手ごとに 人が許可する 要所だけ確認 取り返しのつかない 行動の前だけ止まる 任せきり 終わってから 結果を見る
図1-2自律性の段階。右へ行くほど人の手間は減るが、確かめる仕組みの重要性が増す

佐藤さんの例でいえば、「検索や資料の読み込みは任せきり、比較表を上司に送る前だけは自分が確認する」という設定は、LEVEL 3にあたります。調べものという取り返しのつく作業は任せ、送信という取り返しのつかない作業の前で止める。この考え方は、第8章「権限は段階で渡す」で詳しく扱います。

つまみの位置を決めるのは、AIの賢さではなく、任せる仕事の性質と間違えたときの影響の大きさです。どれほど賢いエージェントでも、会社の口座からお金を動かす作業をLEVEL 4で任せるべきではありません。

1.5いつもエージェントが正解とは限らない

エージェントは最も新しく、最も高度な形に見えるため、「何でもエージェントにすればよい」と考えがちです。しかし、実際には次のような場面では、手順に沿うAIや、答えるAIのほうが適しています。

  • 毎回同じ流れで済む仕事:手順が決まっているなら、毎回道筋を考えさせる意味がありません。手順書のほうが安く、速く、結果も安定します。
  • 毎回同じ結果でなければ困る仕事:監査の記録のように、誰がいつやっても同じ処理であることが求められる仕事には、柔軟さはかえって邪魔になります。
  • 1回のやりとりで済む仕事:文章の言い換えや要約なら、答えるAIで十分です。エージェントにすると、余計な調べものをして時間と費用がかかることがあります。

逆に、エージェントが力を発揮するのは、進め方が事前に決めきれず、途中の結果を見て判断を変える必要がある仕事です。佐藤さんの調査は、どの会社の情報がどこにあるか事前には分からないので、まさにこの種類にあたります。

ここで覚えておきたいのは、「エージェントにするかどうか」は性能の問題ではなく設計の選択だということです。費用と時間の話は第13章、どの仕事を任せるかの判断は第14章で改めて扱います。

1.6エージェントを形づくる4つの部品

最後に、第1部全体の地図を示しておきます。どれほど複雑に見えるエージェントも、分解すると次の4つの部品でできています。この教材では、この4つを人の仕事にたとえた呼び名で統一します。

頭脳・道具・机・ループの4つの部品の関係を示す図 机 記憶(コンテキスト) 第5章 依頼文・指示 これまでのやりとり 道具の結果・読んだ資料 計画メモ(第6章) 頭脳 言語モデル 第2章 机の上を読み、次の一手を文章で書く 手足 道具(ツール) 第4章 検索する・読む・書く・送る・動かす 読む 依頼書 結果を載せる この一巡を、目標に届くまで繰り返す=ループ(第3章)
図1-3エージェントの4つの部品。頭脳が机を読み、道具に依頼し、結果がまた机に載る。この一巡がループ
部品正式な呼び名役割詳しくは
頭脳言語モデル机の上を読み、次の一手を選んで文章で書く。それ以外のことはできない第2章
手足道具(ツール)検索・ファイル操作・送信など、外の世界に働きかける第4章
机記憶(コンテキスト)頭脳が判断に使える情報の置き場。広さに限りがある第5章
ループ観察・判断・行動の繰り返し結果を見て次の一手を選ぶ動きを、終わりまで回し続ける第3章
表1-2 4つの部品と、この教材での呼び名

この4つの見方は、第2部・第3部でも使い続けます。たとえば「エージェントが指示を守らなかった」という出来事も、頭脳の判断の誤りなのか、道具が古い情報を返したのか、机から指示が落ちていたのか、ループが止まるべきところで止まらなかったのかに分けて考えると、原因と対策がはっきりします。

新しい製品のニュースを読むときも同じです。発表されたのが「頭脳が賢くなった」話なのか、「使える道具が増えた」話なのか、「机が広くなった」話なのか、「ループの回し方が変わった」話なのか。どの部品の話かが分かれば、自分の仕事に関係があるかどうかを落ち着いて判断できます(第16章)。

よくある誤解

エージェントとは、チャットのAIより賢いAIのことだ。

賢さは関係ありません。同じ言語モデルが、置かれ方によってチャットにもエージェントにもなります。エージェントを特徴づけるのは「道具を持ち、結果を見て次の一手を自分で選び、終わりを自分で決める」という仕組みです。

そのため、「より賢いモデルが出た」というニュースと、「エージェントの仕組みが変わった」というニュースは、分けて読む必要があります(第16章)。

DEEP DIVE / もう一歩深く

なぜ「エージェント」という言葉はあいまいに使われるのか

「エージェント」はもともと「代理人」を意味する言葉で、AIの研究では何十年も前から「環境を観察し、目標に向けて行動するもの」という広い意味で使われてきました。この広い定義に従えば、室温を見て暖房を入れたり切ったりする装置ですら、ごく単純なエージェントだと言えます。

そこへ、文章を自在に扱える言語モデルが登場し、「言語モデルに道具を持たせて自分で動かす」仕組みが実用的になりました。いま一般に「AIエージェント」と言うとき指しているのは、主にこの新しい形です。

ところが言葉の響きが良いため、手順に沿うだけの仕組みや、少し便利なチャットにも同じ名前が付けられるようになりました。だからこそ、名前ではなく、1.3節の3つの問いで中身を確かめる習慣が役に立ちます。

確認確認問題

チャットのAIとエージェントの違いを最もよく表しているのはどれですか。

解説を見る

同じ言語モデルでも、置かれ方によってチャットにもエージェントにもなります。違いは「次の一手を誰が決めるか」です。

「毎朝、届いた問い合わせメールをAIが要約し、決まった表に追記する」仕組みは、どれに当たりますか。

解説を見る

受け取る・要約する・追記するという流れを人間が事前に決めており、AIはその一部を担当しているだけです。結果を見て次の行動を変えることも、終わりを自分で決めることもしていません。

エージェントより「手順に沿うAI」を選ぶべき仕事として、最も適切なのはどれですか。

解説を見る

流れが決まっていて、毎回同じ結果が求められる仕事では、エージェントの柔軟さはかえって予測しにくさになります。手順書のほうが安く、速く、安定します。

この章のまとめ

  • AIへの頼み方は「答える」「手順に沿う」「自分で動く」の3つ。違いは賢さではなく、次の一手を誰が決めるか。
  • 同じ言語モデルでも、置かれ方によってどの形にもなる。
  • エージェントかどうかは「道具を自分で選ぶか」「結果を見て次を変えるか」「終わりを自分で決めるか」の3つの問いで見分ける。
  • 自律性はスイッチではなくつまみ。つまみの位置は、仕事の性質と間違えたときの影響で決める。
  • エージェントは「進め方を事前に決めきれない仕事」で力を発揮する。いつも正解ではない。
  • エージェントは頭脳・手足(道具)・机・ループの4つの部品でできている。出来事もニュースも、この4つに分けて考える。
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